作曲家らしい弾き方はどうすれば分かる?知らない作曲家の曲はどう理解する?

これは大変面白い質問で、長いこと考えていました。お返事遅くなってしまいすみません。

そもそも作曲家らしい、と現代に広く知られているその作曲家のイメージが、どのくらい本当の意味で(当時の人々が感じていたレベルで、もしくは作曲家自身が思い描いていた本人像として)作曲家らしいのか、という問題があります。今日「ショパンらしい」「ベートーヴェンらしい」などと我々が形容するのは、現代人が共通して抱いているその作曲家のイメージに他なりません。その形容が反映された「作曲家らしい」演奏が、本当にその作曲家の意図するところに最も近いかどうかを知ることは困難です。そして、「現代人が共通して抱いているその作曲家のイメージ」を体現することが目標であるならば(ここに関しては是非を論じることもできるでしょうけれど、今は一旦置いておき)今日一番人気のその曲の録音や、「スタンダードな演奏」「正統派の解釈」などとされている録音を多く聴いて、似たような弾き方をすれば、それが現代人の思う「作曲家らしい」演奏になるかと思います。

録音を聴く、というのは大事な作業です。私もよく「ショパンらしくない」「バッハらしくない」など色々言われてきました。そんな時はすぐにWikipediaや作曲家の伝記本を開けて、「18XX年にどこそこに行って、その後失恋して…」みたいな話を読み、へえこういう人なのか、とその作曲家のことが分かった気になっていたこともあります。ただ、そうして得た知識が音楽にいつも反映されるかと言うとそう話は簡単ではなく。結局、「この作曲家はこうであるべき」みたいな美学が自分の中で生まれてきたのは、その作曲家の今弾いている曲以外の曲を、楽器や演奏された時代を問わずたくさん聴いた後でした。

○○らしい、という形容の仕方が、人々に共有されている共通のイメージである限りは、大多数の人が弾いているその作曲家の弾き方と同じ方向性の演奏をするのが一番安全に「作曲家らしい」演奏に近づく方法だと思います。ただ、「伝統的な弾き方」とされてきたものが実際は伝統的ではないのではないか議論や、自己流で弾いてもスゴイ!となる人もいるではないか議論などもありますので、あくまで私の回答は、「作曲家らしい」演奏に近づくための最短ルートを提示したのみです。学術的に、史実が…などとという観点は一切考慮していません。

さて、ピアノは先生に教わるものでは無い、というのは、ある程度勉強をした後に自分の弾き方が確立された人、もしくは自分で考え方が分かる人が言う言葉だと思います。私個人の意見としては、ある程度勉強して考え方が分かる人でも、先生に習わずに全て自分で解決するのは相当難しいことであると思います。私がこちらで師事した先生たちも、「何歳になっても先生は必要。」と言っていました。チャイコフスキー国際コンクールで入賞したのに、もしくは某名門音楽院で教授をしているのに、私の先生のところにレッスンを受けに来る人たちを私は見てきました。確かに楽譜を見れば分かることも多いのですが、見ても分からないことや、見て分かったはずなのに表現できないこと、見えているのに分かっていないことなどもたくさんあります。それは、教授でもピアニストでも、質問者様でも私でも同じなのではないでしょうか。そういうところを見つけて、導くのが先生の役目ですし、その為にレッスンは何歳になっても必要だと感じる人もいるのでは、と思った次第です。

自分が知らない作曲家の曲を教える時…私は幸いまだそんな状況を経験していないのですが、その作曲家の弾き方を理解するためには恐らく、

  • 同時代や、時代が前後の他の作曲家と比べてみる。何か共通点や、又は明確な差異があればそれを理解することがその作曲家の表現に繋がるかもしれないので。

  • その作曲家のおかれた時代背景を考える。歴史的に何があったのか、どこの国の人なのか、等。その作曲家が誕生するまでの歴史的な流れを把握する。

  • その作曲家の生きた時代から、その作曲家が使っていたであろう楽器を想像する。すると、その楽器でできること、できないことが多少想像できるので。

  • 楽譜を見て、何か特徴的な作曲の仕方をしていないか見てみる。例えばベートーヴェンがfとpを間髪入れずに書いている…みたいな、他に自分が知っている作曲家がしていないユニークな書き方があれば、そこに注目して音楽の作り方を考える。

  • ただ、もし可能であれば、その人の書いた他の作品をとにかく聴きまくるのが一番作曲家像を掴むのに手っ取り早いとは思います。

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