音楽は言葉では言い表せないものを表現している?では音楽では文学作品では表現できない何かを表現できる?

はい。音楽は言葉では言い表せないものを表現していると思います。でも、物語や詩などの文学作品も、言葉では表現できないものー例えば抽象的な概念、イメージ、複雑な感情などーを、言葉を組み合わせる事で表現しようとしていると思います。では、音楽が文学作品では表現できない何かを表現できるかどうか。これに関しても、そうだとは思いますが、逆もあり得ると思います。つまり、文学作品は音楽では表現できない何かを表現し得るということです。

ドビュッシーはこのように言ったそうです。「音楽は言い表し得ないもののために作られるのです。音楽は影から出てきて、時々、そこへ戻っていくという様子をし、つねに控えめな人物(*音楽の比喩)であって欲しいですね…」(出典

言葉は万能ではありません。言葉や理論で全てを説明できるとは私は考えていません。そもそも私たちの頭の中には、イメージや概念があり、それを表現するプロセスで「適切だと思われる単語」を選び、それを他の単語と上手く組み合わせて表現することで、他者とコミュニケーションを取ります。でも、いつでも我々が「適切だと思われる単語」を見つけられるとも限りません。

「言葉にならない」とか、「言葉にすると陳腐になってしまうから言いたくない」みたいな瞬間ってありますよね。そういう時、言葉や理論立てた説明以外の手段の方が、そうしたものの表現に近づくことができると私は考えます。音楽は人類の共通言語、というように形容される所以には、こういう考え方もあるのではないでしょうか。

人間は虚構や物語を集団で共有することで進化していった、みたいな説があります。ホモデウスの作者のハラリさんが言っていたことだったと思います。7万年くらい前に、集団で「神」(共通の物語/虚構)を信じるようになり、それが安定した人間関係の構築に繋がり、集団の結束を強め、結果的に人は他の生き物より強くなり発展した…という考えです(注:本は読んでいないので、違っていたらすみません!)

音楽が持つ力もこれに似ているように私は感じます。音って、言ってみれば虚構じゃないですか。見えないし、一瞬で消えるし、本当に実態が薄くて儚い。でも、人種や文化は勿論、言語までもを超えて、ある特定の感情を呼び起こす力がある。世界で一番最初の音楽が、果たして死者の弔いのために唸ったことだったのか、道具を鳴らしてリズムを取ったことだったのか、歓喜の叫びと足踏みから派生したのか私にはわかりませんが、音楽の「同じものを聴くことで、集団の結束を強める」という作用は、虚構を信じることに通じるように思えます。なので、私はたまに「音楽を信じることと、神を信じることは本質的には同じ」と言ったりします。抽象的すぎてあまり理解してもらえないことが殆どですが。神も、言葉で言い表せないものの1つでもありますよね。